The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


インターネット電話−VoIPの仕組みと動向

電子情報通信学会誌Vol.82 No.5 pp.523-525

福山訓行

福山訓行:正員 (株)富士通研究所パーソナル&サービス研究所
E-mail fukuyama@flab.fujitsu.co.jp
Internet Telephony:Technology and Trends of the VoIP.By Noriyuki FUKUYAMA, Member (Personal & Service Laboratories, Fujitsu Laboratories Ltd., Akashi-shi, 674-8555 Japan).

1. は じ め に

 米国では 2000〜2002 年の間にデータ通信量が音声通信量を上回ると予測されており,数年後には日本でも同様な現象が起きるのは想像に難しくない.そのような背景のもと,音声通信をデータ通信に統合することで,設備/運用などのコストを削減する動きが活発になってきている.
 本稿では,音声通信をデータ通信に統合する際に用いられるインターネット電話の技術である VoIP(Voice over IP)の仕組みと,その動向について解説する.

2.2. VoIP の仕組み

 VoIP とは,インターネットで使用されているネットワーク層のプロトコル=IP(Internet Protocol)を持つネットワーク(IP 網)上で,音声を短い時間(20 ms 程度)ごとにフレームとし,IP ヘッダをつけてパケットとして送受信を行う技術である (図1).コンピュータネットワークにおける音声の送受信の歴史は古く,1974 年にインターネットの前身である ARPANET で実験が行われている(1).
 VoIP の最もシンプルな形は,IP 網に接続された2台の PC 間で通話を行うものである.それ以外に,両側とも公衆網に接続された電話機を使用しているが,途中の伝送路に IP 網を使用している場合や片側が PC で片側が電話の形態もある.
 VoIP の利点は,伝送路の効率的な利用とアプリケーション連携の容易性であり,欠点は,音質の保証ができないことである.以下では,これらの利点/欠点を詳細に説明する.
 利点の一つは,音声も IP パケットという形で規格化されているため,データと混在して IP 網上で送受信できることである.このためデータ通信と別に用意していた音声用通信回線の設備をデータ通信網に統合することが可能となる(図 2( a )).更に効率を上げるために,音声データを 5〜8 kbit/s に圧縮することなどが行われる.
 もう一つの利点であるアプリケーション連携には,PC で同じ画面を共有しながら遠隔地の相手と音声通話することやディレクトリサービスなどの他のサービスとの連携などがある.
 欠点とされる音質については,VoIP に使用される音声圧縮による音の劣化は通常の電話と比べて気になるほどではなく(2),問題は遅延とパケットの消失である.音声をパケット化するときの遅延や,IP 網での遅延など総合すると 100 ms 程度の遅延は避けられない.遅延により普段は知覚されないエコーも気になり出す.パケットの消失が起きると音が途切れたりすることもある.
 現在,インターネットなどの IP 網では QoS(Quality of Service)が保証されていないので,トラヒックが上がると,更に遅延が大きくなったり,パケットが消失する確率が上がり音質が悪化する(図 2( b )).

3. VoIP の動向

 VoIP は,当初,独自手順による製品化が先行したが,相互接続が重要となり 1996 年に ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部会)で H.323(3)が承認され,現在の標準となっている.
 H.323 には,ターミナル,ゲートウェイ,MCU(Multipoint Control Unit),及び,それらを統括するゲートキーパーと呼ばれるコンポーネントが規定されている.
 ゲートキーパーはアドレス解決や使用帯域の許可を行っており,着信先の選択や伝送容量を超えての発信を制限することができる.呼制御の付加サービスとして,接続先が通話中の場合に空いている端末への接続変更や転送などの標準化も進んでおり,VoIP を使った構内交換サービスといった側面も備えつつある.
 また,インターネット技術の開発を行う機関である IETF(Internet Engineering Task Force)では,VoIP と公衆網間の相互接続を充実させるために,IP 網へ共通線信号方式をゲートウェイする検討や電話番号(E.164 アドレス)と IP アドレスの相互変換の検討なども開始している.さらに,IP 網で QoS を保証する技術に関しても同様に標準化が進められており,VoIP の基盤が整いつつある.
 VoIP を取り巻く社会環境も大きく変化してきている.キャリヤと ISP(Internet Service Provider)の両サービス提供者間,通信機器メーカーとネットワーク機器メーカー間,それぞれで手を組む動きがある(図3).米国では音声も含めてすべての通信を IP 網上で行うとする新興のキャリヤさえ出始めた.また,前出の ITU-T と IETF の連携も密になってきている.このような動きより,VoIP の標準化,製品開発,サービス提供のすべての面が加速するものと考えられる.

4. お わ り に

  本稿では,VoIP の仕組みと動向について解説した.
 VoIP は,QoS の得やすい企業のイントラネットや VoIP 専用網などから確実に実用になっていくものと思われる.VoIP の普及には,法や制度の問題なども関係しているが,家庭まで IP 網が広がり,テレビ,電話,データなど,すべてが IP 網上で送受信されるようになる日も夢とはいえなくなってきた.

文 献


ふくやま のりゆき 
福 山  訓 行(正員)
昭 61 阪大・工・通信卒.昭 63 同大学院修士課程了.同年富士通(株)入社.以来,通信・企画部及び同社研究所にてコミュニケーションシステムの研究・開発に従事.現在,同社研究所パーソナル & サービス研究所情報サービス研究部研究員.


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