The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


ICカード技術とアプリケーションの動向

電子情報通信学会誌Vol.82 No.1 pp.76-78

浦田昌和

浦田昌和:日本電信電話株式会社技術部 
Smart Card:Technologies and AppliCationS.By Masakazu URATA,Nonmember(Technology Department,NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATlON, Tokyo,163-8019 Japan).

1. はじめに

1970年代前半に考案されたICカードは,1980〜90年にかけテレホンカード,クレジットカードに採用されるなど,フランスをはじめ欧州で広く普及してきた.日本では磁気カードを使ったプリペイドカードが幅広く利用されているが,現在様々な分野でICカードの導入が検討されている.

2.lCカードの分類

 ICカードはICチップが埋め込まれたカードであり,形状や入出力インタフェースが国際標準により規定されている.なお,国際的にはICカードと呼ばずに「スマートカード」と呼ぶのが一般的である.図1に示すように,磁気ストライプやエンボスを備え,クレジットカードなどと共用なっている場合もある.
 ICカードはその構成及びリーダ・ライタとのインタフェースにより,表1,表2のように分類される.
 現在は表面に電気的接点を持った接触型ICカードの利用が多いが,以下のような理由から非接触型ICカードが注目されている.
  ・接触不良によるトラブルが少ない
  ・カード表面のデザインが自由
  ・カードの駆動や位置合せの機構が不要となり,リーダ・ライタが小形化可能
  また1枚のカードで接触,非接触の両方のインタフェースを備えた複合型のカードも開発されている.

3.ICカードの特徴

プロセッサ付きICカードの特徴を以下に示す.
(1)高いセキュリティ
ICチップはLSI製造技術によって製造されており偽造が困難である.またデータヘのアクセスをプロセッサにより制御でき,不正なアクセスを制御することができる.さらに,異常な電圧やクロックの印加による不正アクセスに対しては,それらを検出する回路を付加しアクセスを禁止することも可能である.
(2)大容量記憶
 磁気カードに比べ100倍以上の記憶が可能であり,データだけでなくアプリケーションを入れることもできる.
(3)演算機能
 チップ内にプロセッサとメモリを内蔵しており,小さなパソコンとして機能する.認証や情報の暗号化,電子マネーのようなアプリケーションプログラムをカード内で実行できる.
(4)高い携帯性
 手軽に持ち運べ個人情報の保管に適している.

4.ICカード技術

このような特徴を持ったICカードに関して,最近注目されている技術を取り上げる.

(1)ICチップ技術
 現在は8bitのブロセッサが主流であるが,暗号処理やアプリケーションの高速化のため,32bitの高性能プロセッサが開発されている.チップ面積の大部分は不揮発性メモリであり,電気的に書換え可能なEEPROMやフラッシュメモリが使用されているが,書込み速度や消費電力の点からFeRAM(強誘電体メモリ)が注目されている.表3に典型的なlCカードの例を示す.
(2)カードOS技術
 1枚のカードに複数のアプリケーションを搭載でき,アプリケーションのダウンロードを可能とするカードOSが開発されている.高度なセキュリティ機能を持ったはん用カードOSであるMULTOSや,カードOS上にJava仮想マシンを構築しアプレットを動作させるJava-Cardがその代表的なものである.
(3)本人認証技術
 利用者の本人性を確認する方法として,署名やPIN(Personal Identification Number;暗証番号)の照合が利用されている.より確実な認証を行うために,指紋,昔声,網膜パターンのような生体情報(バイオメトリックス)を利用した本人認証技術が研究されている.

5.ICカードを利用したアプリケーション

ICカードは種々の応用が考えられるが,その代表例を表4に示す.
ICカードは欧州での普及が進んでおり,テレホンカード,SIMカード,クレジットカード,電子マネーなどに利用されている.さらに,携帯電話にICカードを挿入し,銀行口座の残高照会や振込を行ったり,電子マネーのローディングを行うサービスが検討されている.アジアでも香港の地下鉄や韓国のバスの乗車券として既に利用されている.
 これに対し日本では,ICカードはこれまでポイントカードなどで一部利用されているにすぎなかった.しかし,現在では様々な分野でICカードの導入が予定されており,各種実験も始まっている.通信分野では,既に自動車電話でSIMカードが利用されており,平成11年3月から非接触型ICカードを採用した公衆電話システムが順次導入される予定である(図2).金融分野では,神戸や渋谷で電子マネーの実験が行われており,新宿でも大規模な実験が予定されている.交通分野では定期券や有料道路の料金収受システム(ETC)の実験が行われている(a).また,公共分野では,市民カードや医療保険カード,運転免許証のlCカード化が検討されており,公共分野でのICカードの共通化を目的とした研究会も発足している.

6.あとがき

ICカード技術とアプリケーションの動向について紹介した.今後,ICカードは社会生活における重要なデバイスとして普及が進み,利用者はより利便性の高いサービスを享受できるようなるであろう.


文献
(a)高部佳之,清水隆文,大和忠臣,五島浩一,山口弘太郎,伊藤公一,“ワイヤレスカードの現状と展望,”信学誌,vol.81,no.l,pp.41-50,Jan. 1998.

うらたまさかず
浦田 昌和
平2阪府大・工・電子卒.平4同大学院修士課程了.同年NTT入社.以来,オンライントランザクションシステムの研究・開発,先端的技術の調査・研究に従事.現在,同社技術部主査.情報処理学会会員.


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