医療情報システム
 medical information system



 医療情報システムは, 主に(1)病院情報システム, (2)地域医療情報システム, (3)医療情報サービス, (4)医学研究情報システム(あるいは計算医学)に分けられる.
 まず, 病院情報システムの発展は, 大きく三世代に分けられる.
 第一世代は, 病院個別部門の情報化に対応したものであり, 1970年代から存在するシステムに医事会計システムおよび検査情報システムがある.
 第二世代は, 1980年代から進展したもので, 個別的情報システムを診療の現場と院内 LAN でつなぎ, 検査オーダ, 処方オーダなどを検査部や薬剤部にオンラインで送るオーダシステムを中心とした総合病院情報システムが登場した.このとき個別システムも, 薬剤情報システム, 放射線情報システム, PACS (画像蓄積院内伝達システム), 看護情報システム, 手術・輸血部門システムなど, これまで以上に情報化の範囲が広がった.また, この時期には, 自動調剤システム, 検査自動化システム, ICU ベッドサイドシステムなど各部門での自動化機器技術も進展した.さらに医事システムには, 病院内物流管理システムも付け加わり, 特に再診患者に便利な診療予約システムも開発された.この世代では, 業務面の病院の情報化はかなり完成のレベルに近づいたといえよう.
 第三世代は, 1990年代から始まったが, この世代においては業務システムに加えて, 診療録管理を基礎に診療情報の統一的取扱いをめざす電子カルテ機能を重点化した病院情報システムがめざされている.これは情報システムが診療自体の内容を, より積極的に支援することを目的とするもので, 診療支援システムの充実を重視したものといえよう.この診療支援システムには, これまでも医学電子教科書, 医療エキスパートシステムなど, 知識工学の医療応用が進んでいたが, 最近のマルチメディアの医療応用が進むと共に, これらの診療支援システムも単なる意思決定支援だけでなく, メディアの種類を超えた不可視情報を含む患者情報が提示できるようになった.それは仮想現実( virtual reality )の医学応用としての三次元患者画像や仮想手術システムなどに応用され, さらに, 最近発展がめざましい医用画像処理システムを活用するものである.特に, 医用画像は次に述べる地域医療情報システムでも大きな役割を果たしている.
 地域医療情報システムでは, 在宅医療情報システム, 遠隔医療情報システムなどを中心に, 最近特に医療情報ネットワークの発展と共に関心を集めている.特に, ハイビジョン利用によるテレパソロジー(遠隔病理診断)や, テレラジオロジー(遠隔放射線画像診断)が現在は関心を集めているが, やがてテレサージェリー(遠隔手術)なども実用化が進むものと思われる.インターネットの時代になって, 医療情報の標準化, 医療情報通信規約, 医用画像規格( DICOM )など, データの共通形式の問題が現れると共に, 医療情報のプライバシー保護も重要な関心を呼びつつある.遠隔医療ではネットワークだけでなく通信衛星の医療応用も盛んである.在宅医療では, 患者指導プログラムなどの促進も重要な課題である.地域医療ではその他に, 救急医療情報システム, 健診情報システムも発展しつつある.
 医療情報ネットワークでは, 臓器移植情報ネットワークや大学病院間をつなぐ大学医療情報ネットワーク( UMIN ), 最近では通信衛星を使った大学病院衛星医療情報ネットワーク( MINCS ), さらに各地の国立病院を結ぶがん情報ネットワーク, また, これまでも存在したものとしては, 全国がん登録システムなどがある.その他の分野としては, 看護情報ネットワークがある.医療情報サービスとしては, 医学文献検索システム, 中毒情報サービス, 医薬品情報サービスなどがある.
 さらに, 医学・医療の研究面での情報技術の応用としては, これまでも医療データベース, 生体情報処理などがあったが, 最近はスーパコンピュータの医学応用として, 生体分子軌道計算, ディジタル解剖学などが, 大量の計算と画像化が必要な研究分野として計算医学の名の下に精力的に研究されている.ニューラルネットによる診療支援あるいは医学知識発見など, データベースの有効利用に必要な研究も盛んである.その他に医療技術や政策の評価をめぐる医療技術評価, 患者の生活の質( QOL )を考慮した治療選択など, 医療意思決定の分野も広がっている.
(田中)




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