伝送システム
 transmission system



 シンプルで柔軟な, かつ運用性に富む伝達網を実現するうえで, 機能に基づく伝達網の階層化の概念は重要である.伝達レイヤ構造を定義し, 伝達網の階層間のインタフェースを明確にすることにより, 技術の進展と共に階層ごとに新しい技術を取り入れることが容易となり階層間の独立な発展が促進される.伝達網は回線網, パス網, 伝送媒体網に階層化される.一般に交換機間に必要とされる回線の束(パス)は細く, 回線網と一致させた伝送媒体網(物理網)を作ることは経済的ではない.
 パス網は回線網からの要求に基づき, 交換機などの間にパスを設定すると共に, パス単位での編集機能, パスを必要に応じて一定の束に束ねる多重化機能ならびに伝送路にアクセスする機能を提供する.メッシュ網あるいはリング網において, このディジタルパスを提供するネットワークエレメントをクロスコネクト( XC ), または ADM ( add/drop multiplexer )と呼ぶ.効率的な網の運用・保守を行ううえでもパス網は重要な役割を果たす.例えば, 伝送路またはノードが故障した場合の, パス網のマネージメントによる網的故障切換えは, 伝送路切換えと共に, 重要な網の高信頼化技術である.また, シグナリングによらずパス機能を用いて半固定的な回線をユーザに提供する専用サービスも広く用いられている.
 伝送媒体網は, 交流トラヒックの多いノード間に, 地理的な条件, 経済性, 信頼性などを考慮し, 光ファイバ伝送方式あるいは無線伝送方式などの伝送方式を伝送端局( LT )機能により提供する.このような伝達網の基本構造は転送方式には依存しない.伝送技術としては, アナログ信号を周波数分割多重により多重伝送する方式(アナログ伝送方式)から, 1965年の PCM-24 方式(伝送速度1.5Mbit/sで平衡対ケーブルを使用)の導入により, ディジタル信号を符号化し時分割多重( TDM )して伝送するディジタル伝送方式へと進歩し, これにより伝送品質は大幅に向上した.ネットワークの本格的なディジタル化は同軸ケーブルを伝送媒体とする(同軸伝送方式) DC-400M 方式, および無線の準ミリ波を使用する 20L-P1 方式の導入を契機に, 大きく進展した.
 時分割多重化技術としては, 当初スタッフ同期多重による非同期ディジタルハイアラーキ( PDH )が用いられていたが, 我が国では1989年に同期ディジタルハイアラーキ( SDH : synchronous digital hierarchy , 北米では SONET )が導入された. SDH では多重化フレーム内に十分なオーバヘッド領域を有する NNI ( network node interface )が標準化された. SDH 技術により伝達網のシンプル化 OAM ( operation , administration and maintenance )コストの大幅な低減が実現され, また, 伝送ノードのスループットも大幅に拡大した.このようなディジタル網の実現には, セシウム, ルビジウムなどによる周波数基準を用いてクロックを供給する網同期技術が重要な役割を果たす.1990年に最初の世界標準がリリースされた ATM ( asynchronous transfer mode )網においては, ATM 多重によりパス機能が伝送システムの物理インタフェースとは独立に論理的に実現できるようになり(バーチャルパス), 伝達網のフレキシビリティが大幅に向上した. ATM リンクシステム, ならびに ATM 網リソースマネージメント技術の開発により, マルチメディア通信の実現性も大幅に向上した.
 光ファイバ伝送技術は, 1980年代初頭から世界的に導入が開始され, 陸上, 海底(海底光伝送方式)を含め, 中継伝送コストの劇的な低減をもたらしてきた.1990年代の半ばには, 加入者系への導入(光加入者伝送方式)も積極的に行われるようになると共に, 光増幅器・光部品技術の進展を背景に, TDM 技術に加えて波長分割多重( WDM : wavelength division multiplexing )伝送技術が実用化されるに至った.波長分割多重技術は伝送路の容量を増大させるだけではなく, 従来, 伝送ノードで TDM フレーム内の時間位置あるいは, セルのヘッダにより行われていたパス・チャネルのルーチングに利用することが可能である.このように, 伝送路中で波長多重され, ノードで波長により識別およびルーチングされるオプティカルパス・チャネルを用いたフォトニックネットワークシステムの研究開発が, 世界各国で精力的に進められている.
(青山)




(C)社団法人 電子情報通信学会 1998