論文賞 推薦の辞
Bending-Loss Insensitive Fiber with Hole-Assisted Structure
中島 和秀 ・ 清水 智弥 ・  松井  隆 ・  深井 千里
倉嶋 利雄
(英文論文誌B 平成23年3月号掲載)
 低曲げ損失光ファイバ(BIF)は,従来の単一モード光ファイバ(SMF)の最大の弱点である,屈曲部における信号光の減衰(曲げ損失)を低減した光ファイバで,光配線の施工性を大幅に改善する.空孔アシスト光ファイバ(HAF)は,従来のSMFと同等のコアと,その周囲に同心円状に配置された数個の空孔により構成され,コアと空孔間の屈折率差を10%以上に増大できる.これにより,空孔より内側の領域に信号光を閉じ込め,曲げによる損失増加を飛躍的に低減することが可能となる.このため,空孔アシスト構造はBIFの有力な実現手段の一つとして考えられる.一方で,空孔による光の閉じ込め効果は信号成分(基本モード)のみならず雑音成分(高次モード)に対しても作用する.このため,低曲げ損失特性と良好な伝送品質とを兼ね備えたHAFを実現するためには,その断面構造を詳細に設計する必要が生じる.
 本論文では,従来のSMFと同等の伝送品質を有し,かつ許容曲げ半径を従来の30mmから5mmにまで低減するHAFの構造条件について,解析・実験の両面から検討を行っている.本論文の特長は,コアの規格化周波数,コアから空孔までの距離,並びに断面内における空孔の面積割合,の三つの構造パラメータに着目し,これらを用いたHAF伝送特性の簡易推定技術を提案している点に認められる.接続特性の制御で重要となるモードフィールド径(MFD)に関しては,コアの規格化周波数と,コアと空孔間の距離を考慮することにより,通常のSMFと同等のMFD特性が実現できることを明らかにしている.また著者らは,所望の遮断波長および曲げ損失を実現するHAFの構造条件が,空孔の面積割合とコアの屈折率を用いて推定できることを新たに見出した.これらの設計指針の妥当性は実際に試作したHAFにより検証されると同時に,その光配線コードとしての適用性も実験により明らかにしている.
 本論文は,空孔構造を有する新しい光ファイバにおいて,通常のSMFとの互換性を実現する設計指針と,その実用性を初めて明確化したものである.HAFと通常のSMFとの互換性は,HAF技術の適用領域拡大を促す重要な特性条件であり,今後の更なる展開も期待される.

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