功績賞 推薦の辞
守谷 健弘
  守谷健弘君は,昭和53年東京大学工学系研究科計数工学専攻修士課程を修了され,同年日本電信電話公社武蔵野電気通信研究所(現日本電信電話株式会社,NTT)に入社されました.平成元年3月には東京大学より工学博士号を取得されています.また,同年1月から11月までAT&Tベル研究所客員研究員を務められました.平成9年12月ヒューマンインタフェース研究所特別研究員,平成16年1月コミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部長,そして,平成19年同研究所守谷特別研究室長,フェローに就任され現在に至っております.
  同君は,永年にわたって国際的なレベルで音声・オーディオ符号化の研究に取り組まれました.まず,ディジタル携帯・自動車電話技術では,平成5年にPDCハーフレート標準化方式として採用された音声のピッチ同期励振源に基づくPSI-CELP音声符号化方式の開発リーダとして技術貢献されました.さらに,現在でもIP電話用通信機器に必須の音声符号化方式であるITU-T G.729(8kbit/s CS-ACELP方式)の勧告策定では共役ベクトル量子化構造やピッチ同期励振の考え方を提案し,高品質かつビット誤りに強い方式を実現しました.ピッチ同期励振の考え方は,その後の携帯電話などの低ビット音声符号化の国際標準規格にも引き継がれています.
  オーディオ符号化では変換領域重み付けインターリーブベクトル量子化(TwinVQ)方式の考案に貢献され,固定ビット割当てで誤り耐性が高く64kbit/s以下でMP3を上回る品質を実現しました.この技術はISDNなどのネットワークによる音楽配信や携帯音楽プレーヤ普及の糸口の一つとみなせ,MPEG-4のオーディオ符号化技術の一つとしても採用されています.
  さらに,圧縮による劣化のないロスレス符号化にも取り組み,MPEG-4 オーディオロスレス符号化 (MPEG-4 ALS)の策定に技術貢献されました.同様に,ITU-TでもG.711 (PCM符号化)のロスレス符号化G.711.0の勧告策定では,品質劣化なしで伝送量を約半分にする技術貢献をされました.
  同君は,これらの技術の実用普及のために積極的に標準化委員を務め,ITU-TやMPEGの活動を展開されました.特に,情報処理学会情報企画調査会SC29専門委員長として国内の立場を標準化に反映するとともに,MPEG-4のエディタ等を務められています.また,本会論文誌編集委員,国際会議の副委員長・運営委員,日本音響学会副会長などを務められ,日本の電子情報通信技術の発展と国際的なプレゼンスの向上に寄与されました.
  同君は,以上の業績により数々の賞を受賞しています.代表的なものとしては,平成6, 8年に日本音響学会技術開発賞,平成7年に本会論文賞,平成7年,19年に本会業績賞(平成7年は小林記念特別賞),平成8年電波システム開発センター電波功績賞(郵政大臣表彰),平成8,11,19年に電気通信普及財団テレコムシステム技術賞,平成9年に日経BP社技術賞(情報システム部門),平成10年に科学技術庁長官表彰(注目発明),平成15年に全国発明表彰(特許庁長官賞),平成18年に情報処理学会論文賞,平成20年に日本オーディオ協会賞,文部科学大臣表彰(科学技術賞・研究部門),逓信協会前島賞,平成22年に紫綬褒章を受けておられます.また,IEEEのフェローでもあります.
  以上のように,同君の本会及び電子情報通信分野における貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.

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