業績賞 推薦の辞 | ||||||||||||||||||||
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光ファイバ通信の発展は,情報通信サービスの拡大をもたらし,ビジネスのみならず個人の生活にも大きな変革を与えている.また,光ファイバ通信技術は,高速な信号伝送を必要とする機器間通信などにも用いられ,今後,さらにその重要度を増すものと期待されている.光非相反素子は,あらかじめ定められた方向に光信号を伝達し,これと異なる方向への伝達は阻止する機能を提供し,光伝送において光能動素子の安定動作に欠かすことのできないデバイスである. マイクロ波帯と同様に,光ファイバ通信波長帯でも非相反な偏波面の回転現象として古くから知られているファラデー回転を用いて,バルク形の光アイソレータが実用化されてきた.光集積回路の研究が進むにつれ,光アイソレータをはじめとする光非相反素子を導波路形で形成する検討がなされるようになった.初期の研究では,偏波面の回転を動作原理とするデバイスが検討された[1].しかし,バルク光学系と異なり,導波路中の伝搬速度が偏波によって異なるため,偏波モード間の位相整合を実現する必要があり,製作精度や動作帯域などの点で実用的なデバイス特性の実現が困難であった[2]. 受賞者は,磁気光学導波路中を伝搬方向によって異なる速度で光波が伝搬する現象,すなわち非相反位相変化を用いて,一偏波で動作させることで位相整合の問題を回避するアプローチをとった.受賞者は,それまで誰も観測したことのなかった非相反位相変化の大きさを測定することに成功した[3].位相変化が光の伝搬方向に依存して変化するため,これを適当な干渉系と組み合わせることによって,光アイソレータや光サーキュレータなどの光非相反回路を導波路で構成することができる. 非相反位相変化は,導波路のコアやクラッドのいずれかに磁気光学材料を配置することで得られる.したがって,半導体レーザと同じIII-V族化合物半導体で導波層を形成し,クラッド層として磁気光学ガーネットを配置することでも光アイソレータが実現できる[4].すなわち,光アイソレータを半導体レーザと一体集積することも可能となる見通しがたった.残された課題は,光ファイバ通信波長帯で大きな磁気光学効果をもち,実用的に光損失が小さな磁気光学ガーネットをいかにして半導体材料と集積するかということであった. 受賞者は,この課題に対して,直接接合法という方法を採った.磁気光学ガーネットとIII-V族化合物半導体では物性が大きく異なるため,互いに結晶成長させることは極めて困難である.1990年代前半に,異なる半導体同士あるいはシリコンとシリカなどの異種材料の組み合わせに対しても直接接合が形成されていた.この手法を,磁気光学ガーネットとIII-V族化合物半導体の組み合わせに対して試みた結果,表面活性化接合法と呼ばれる手法を用いることで,光デバイスとして実用的に十分な強度で直接接合に成功した[5].この成果をもとに,非相反位相変化を動作原理とする光アイソレータをGaInAsP導波路で形成した[6].また,同様の動作原理,製作方法を用いて,SOI(Silicon-On-Insulator)ウエハのシリコン光導波路で光アイソレータを実現した[7](図1).この成果は,国内外で盛んに研究されているシリコンフォトニクス分野において,大いに注目を集めている. さらに,受賞者は,これらの研究を通じ,大学において多くの学生を指導し,本会で活躍する研究者を現在も多く排出している.これらの業績は極めて顕著であり,本会業績賞にふさわしいものである. |
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図1 SOI導波路で形成した光アイソレータ[7] |
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