論文賞 推薦の辞
Machine Learning in Computer-Aided Diagnosis of the Thorax and Colon in CT : A Survey
鈴木 賢治
(英文論文誌D 平成25年4月号掲載)

鈴木 賢治
 本論文は平成25年4月号に企画された英文論文誌Special Section on Medical Imaging に投稿されたサーベイ論文である.コンピュータ支援画像診断(CAD:Computer-Aided Diagnosis)の中で脳神経外科領域とともに研究者が多く,実用化に近い診療部位である胸部と大腸を対象としたサーベイである.その両部位で世界のトップ研究所の一つであるシカゴ大学での著者らのグループとその競争相手の130件以上の論文を対象にまとめられている.CT画像を対象とした胸部腫瘍の検出,胸部腫瘍の良悪性鑑別,大腸ポリープの検出に関してそれぞれまとめられたこの論文の特筆すべき点は,単なる網羅的なサーベイではなく,対象画像(質と量),利用している機械学習,精度と利用した交差検証法の関係が比較可能な点である.
 医用診断において使われる画像は,対象部位を一つに定めたとしても,病変の検出(CADe,Computer-Aided Detection)が主目的なのかそれとも診断(CADx,Computer-Aided Diagnosis)が目的なのかの違いにより,具体的に利用する画像の性質が異なる.高精細化が進んではいるが,被爆量との関係もあり,現在でも様々な空間解像度と分解能を有する画像が使われている.また,個人情報を含む画像であるため,複数の機関で共通のデータを利用した比較研究が難しい.異なる方法の論文同士を直接比較することは困難ではあるが,それを機械学習の方法という軸で整理できていることは,著者の幅広い知識のたまものである.論文の構成は,著者らの開発したMTANNs(Massive-Training Artificial Neural Networks)を含む機械学習の方法の概観に引き続き,それぞれの対象に関して使用する画像種,方法,精度がまとめられている.MTANNsに基づく手法は三つの対象それぞれに適用されて,高い性能が得られていることが示されており,ほかの部位のCADを研究する者だけでなく,機械学習を学ぶ者にとっても貴重な文献であり,高く評価できる.
 なお,この論文特集はオープンアクセスとなっており,多くの初学者や研究者に読まれることが期待される.

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