論文賞 推薦の辞
磁気共鳴型無線電力伝送に対する 高速人体数値ドシメトリ解析
土田 昌吾 ・ ラークソ イルッカ ・ 平田 晃正
(和文論文誌C 平成25年6月号掲載)

土田 昌吾

ラークソ イルッカ

平田 晃正
 無線電力伝送の実用化に向けた動向に注目が集まっている.無線電力伝送において使用が検討される周波数帯は複数存在するが,その一つとしてメガヘルツ帯が挙げられる.本周波数帯の無線電力伝送システムで想定される最大伝送電力はキロワット級であり,従来の無線通信等で用いられている電波の電磁界強度に比べて大きい.そのため,無線電力伝送システムから生じる電磁界により,人体に吸収される単位質量当りの電力(比吸収率,SAR)を評価し,電波防護ガイドラインにおける基準値との適合性を確認することに関心が寄せられている.しかしながら,メガヘルツ帯において体内に吸収される電力を解析的に評価する技術は未成熟であり,多大な時間を要する.また,当該周波数帯では,測定に基づく評価法も存在しない.
 本論文は,メガヘルツ帯磁気共鳴方式無線電力伝送システムから生じる電磁界により,体内吸収電力を高速に推定する電磁界シミュレーションを開発し,適合性評価に適用したものである.具体的には,磁気共鳴方式無線電力伝送システムによるSARは,主に外部磁界の寄与によるものであり,外部電界の影響は軽微であることを示している.この知見に基づき,外部磁界による体内吸収電力を解析するための手法であるスカラポテンシャル有限差分法を適用,かつその連立一次方程式の反復解法として幾何多重格子法を導入することを提案した結果,従来手法に比べて最大で300倍の高速化が可能であることを示している.開発した手法を用いて,異なる人体モデル,様々なばく露条件に対する検討を行い,磁気結合コイルを人体胸部正面に配置した場合にSARが最大となり,その理由は人体モデルの断面積が大きく,モデルを実効的に通過する磁束が最大となる場合に相当することを明らかにしている.
 本論文は,メガヘルツ帯無線電力伝送システムにおけるSAR評価に対し,高速かつ簡易なばく露評価を実現する電磁界シミュレーション技術を考案し,かつ最悪のばく露条件に関する知見を示している.これらの成果は,無線電力伝送システムの安全性評価に一つの指針を与えるものであり,今後のシステム実用化,国際標準化への多大な貢献が期待され,論文賞にふさわしい成果である.

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