論文賞 推薦の辞
A 128-bit Chip Identification Generating Scheme Exploiting Load Transistors' Variation in SRAM Bitcells
奥村 俊介 ・ 吉本 秀輔 ・ 川口 博 ・ 吉本 雅彦
(英文論文誌A 平成24年12月号掲載)

奥村 俊介

吉本 秀輔

川口 博

吉本 雅彦
 秘密情報の不法な複製を防ぐためにICチップ固有のIDが多くの高信頼アプリケーションで用いられている.例として,RFIDタグや,偽造チップを判別するチップ認証,回路のIP(Intellectual Property)プロテクション等にチップIDが使用され,高信頼アプリケーションにおいてチップ固有のデータが必要となる.チップIDを生成する従来の手法として,レーザヒューズやROMへの書込みなどが挙げられる.しかし,これらの手法は製造時に追加の工数やコストが発生するという問題がある.また,Physical Unclonable Function(PUF)はチップ固有であるトランジスタのしきい値電圧ばらつきを利用したID生成手法として提案されている.PUFによって生成されるIDは意図的に生成できるものではないため,製造前には予測不可能である.したがって,PUFによるIDは異なるチップによって再現することは不可能となる.本論文ではID生成手法としてSRAMを用いたPUF回路を提案している.
 本論文で提案するチップID生成手法は,多くのチップに搭載されているSRAM回路を用いた手法である.従来のSRAMを用いたPUFは電源昇圧時にSRAMセルに記録されるデータをチップ固有のIDとして利用する手法であり,記録されるデータはメモリセルを構成するトランジスタ間のしきい値電圧差によって決定する.しかし,従来の手法において,一度電圧を印加すると再びIDを生成するためには長時間のスタンバイ時間が必要となる.これはSRAMセルに記録された過去のデータが内部ノード内に僅かに残っており,再度電源電圧を昇圧した際に生成されるIDへ影響を与えるためである.本論文では電源を印加した状態のまま,SRAMを用いて繰り返しIDを生成することが可能な手法の提案を行っている.書込み回路とメモリセルの電源線への追加回路を用い,ID生成のための制御を行うことによって,メモリセル内のしきい値電圧差をより反映した値をIDとして保存可能となる.また,提案ID生成手法は,従来のSRAMを用いたID生成手法と比較し,消費電力の削減を実現している.
 本論文は,多くのICに搭載されているSRAMを利用したPUFにおいて,低電力化と高信頼なID生成技術を実現しており,高く評価できる内容である.

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