名誉員 推薦の辞
村上 篤道
 村上篤道君は,1971年に東北大学工学部通信工学科を卒業され,同年三菱電機株式会社に入社,映像情報符号化技術やマルチメディア通信・放送技術の研究開発に従事されました.同社開発本部通信研究部,情報電子研究所,通信システム技術開発センターを経て,2000年同社情報技術総合研究所副所長,2002年先端技術総合研究所副所長を歴任されました.2002年東北大学大学院情報科学研究科から情報科学博士号を授与されています.2003〜2013年にわたり,三菱電機株式会社開発本部役員技監を務められ,同社の研究開発をけん引されました.2014年4月からは早稲田大学理工学研究所に転じられ,現在に至っております.
 同君は映像と情報通信の分野を中心とする専門技術の進歩に努力され,これらの技術を体系化することによる価値の創造,システムが提供するサービスの実現と普及による社会への貢献を一貫して推進されました.具体的な成果として,同君は監視カメラや画像認識による農作物自動選別機の開発経験に基づき,シャノンの通信モデルにパターン認識と超圧縮を融合したベクトル量子化技術を適用する通信システムを発想して,先駆的なテレビ会議システムを開発されました.CCITT(現ITU-T)の標準化活動に参加した同君は関連技術をシステム統合するための基幹ツールを提案し,テレビ会議・電話システム用映像符号化標準H.261を核とする端末標準H.320などの国際標準に多大な貢献をされました.
同君は,一連の国際標準化活動(MPEG-2,MPEG-4,H.264,HEVC/H.265等)をオープンイノベーションの場として活用し,高度な技術開発を推進して情報通信技術の発展と産業の振興に歴史的な寄与をされました.その成果は,テレビ会議・電話システムの実用化から,MPEG-2による衛星通信SNGコーデックの開発,国内外のディジタル放送システムの検証機となった世界初のMPEG-2 HDTVコーデック開発などを含み,ディジタル放送サービスの立ち上げに対する歴史的な貢献であります.MPEG-4,H.264,HEVC/H.265は今日のスマートフォンやスーパハイビジョンに及ぶディジタルメディア分野に広く採用されています.同君は更に,高品質ディジタルシネマや航空管制高精細表示の実証にも寄与されました.
 同君は省庁との連携で郵政省電気通信技術審議会電気通信標準化委員会第10専門委員会などの委員職を務められ,また総務省,経済産業省,文部科学省の国家プロジェクトによる情報家電インターネット,大容量高速ネットワーク,超高精細映像・ディジタルシネマ,電子透かしなどにおける研究開発責任者としてプロジェクトを主導され,我が国の産学官連携を推進されました.
 本会では,基礎・境界論文誌編集委員,評議員,監事を歴任され,2012年からは企画室長として,学会組織や諸行事,情報システムの刷新,またCEATECとの連携やSNSによる情報発信等で学会の活性化,学会外連携等に多大な貢献をされました.更に,情報理論とその応用学会会計理事,同評議員,情報処理学会副会長,同事業理事,同全国大会組織委員長などの要職,IEEEにおける数多くの会議における組織委員や基調講演等の活動,また大阪大学先端科学イノベーションセンター客員教授としての指導などにより,学術及び学会の発展や後進の育成に大きく貢献されました.
 これらの業績に対し,本会から業績賞,功績賞,フェロー称号等の各賞,情報処理学会フェロー,テレビジョン学会論文賞,同技術振興賞開発賞,映像情報メディア学会技術振興賞進歩賞,同丹羽高柳賞功績賞,同著述賞,同フェロー,IEEE Consumer Electronics Society Paper Award,同フェロー,R&D Magazine R&D 100賞等を授与されています.また,発明協会から全国発明表彰特許庁長官賞等,数々の賞を受賞されています.
 以上,本会並びに国内外の関連学会,国際標準化や産官学連携における主導的活動を通じて技術の進歩,産業と社会に貢献し,電子情報通信技術の発展に寄与された功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

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