名誉員 推薦の辞
河内 正夫
 河内正夫君は,1973年に東京工業大学大学院理工学研究科電子物理工学専攻修士課程を修了され,同年日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社,NTT)茨城電気通信研究所に入所し,1998年に同社光エレクトロニクス研究所長,1999年に同社未来ねっと研究所長,2003年に同社先端技術総合研究所長を歴任されています.その後,2005年にNTTエレクトロニクス株式会社取締役に就任され,2009年からは同社フェローとして現在に至っています.
 同君は,日本電信電話公社に入社後,液晶表示の研究を経て,1970年代後半からは成長期から発展期の光ファイバ研究開発に従事し,気相軸付け(VAD:Vapor-phase Axial Deposition)法による石英系単一モード光ファイバの低損失化とその作製技術の確立に貢献しました.更に,VAD法を通じて考案した火炎堆積(FHD:Flame Hydrolysis Deposition)法と呼ぶガラス微粒子堆積技術とLSI微細加工技術を融合することにより,光集積回路である石英系平面光波回路(PLC:Planar Lightwave Circuit)技術を世界で初めて実現し,光導波回路による高精度な光信号処理や量産性向上等により,従来の光通信用部品の課題であった生産性や集積性の課題を克服しました.
 同君は石英系PLC技術について,光導波路設計技術,製造プロセス技術及び光実装技術の研究開発を精力的に推進し,波長分割多重伝送光通信システムの普及に貢献したアレー導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)形光フィルタ,光アクセスFTTH(Fiber to the Home)システムを支える光スプリッタ,ROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)システムにおいて光信号を光のまま挿入・分岐に用いる光スイッチなど,光通信システム構築の要となる光部品を数多く開発し,実用化しています.これらの成果は,光半導体材料など他の材料の光集積部品研究や光ハイブリッド実装技術などの新しい研究分野のけん引役にもなっており,同君は光集積回路の先駆的研究とその開発で学術的及び産業的に多大なる貢献をされました.
 これらの業績により,本会論文賞(1984年),本会業績賞(1992年,1998年)並びに本会功績賞(2009年),櫻井健二郎氏記念賞(1995年),科学技術庁長官賞・科学技術功労賞(1999年),大河内記念技術賞(2000年)を受賞され,2008年には紫綬褒章を受章されています.また,本会,応用物理学会,IEEEのフェローの称号を授与されています.
 本会においては,2000年度に光エレクトロニクス研究専門員会委員長,2002年度に企画理事,2008年度エレクトロニクスソサイエティ会長に就任され,また2003年にはIEEE/LEOS日本チャプタ運営委員長を務められ,学術活動の発展に尽力されました.更に,文部科学省の科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会科学技術振興調整費審査部会戦略拠点育成WG 委員や,総務省の21世紀ネットワーク基盤技術研究推進会議構成員などの要職も務められ,日本の情報通信分野の発展に大きく寄与されました.
 以上のように,本会並びに国内外の関連学会,そして通信用光部品産業を含めた電子情報通信技術の発展に寄与された功績は極めて顕著であり,ここに本会の名誉員として推薦致します.

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