功績賞 推薦の辞
土井 美和子
 土井美和子君は,1977年東京大学工学部電子工学科を卒業,1979年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻修士を修了し,同年,東京芝浦電気株式会社(現(株)東芝)に入社されました.2002年東京大学から工学博士の学位を授与,2008年から(株)東芝研究開発センター首席技監,現在に至っておられます.また,2012年大阪大学大学院情報科学科招へい教授も務めておられます.企業の研究者としての業績は特筆すべきものがあり,また電子情報通信の分野における女性研究者の先駆けの一人として活躍されています.
 同君は,一般ユーザが計算機を当たり前のように使う時代に備えてヒューマンインタフェース(HI)技術の研究開発を東芝において推進し,プログラムなしに計算機を使って文書やプレゼンテーション資料などの作成,翻訳などを容易に行えるHI技術の実用化を行いました.
 研究開発した主要技術は,テキストと関連させてレイアウトを決定する「図表のアンカリング技術」,見出しの判別から章節などの文書構造を抽出する「文書構造の抽出技術」,原文と訳文の対照が容易な「機械翻訳編集技術」などです.「図表のアンカリング技術」は,文書の中で図表を参照する段落に錨(アンカ)を打ち込むことにより,段落の位置変更に,図表が自動的に追随する技術です.「文書構造抽出技術」は,文書を解析し,自動的に章番号や箇条書きの記号などの書式を合わせる機能を実現するもので,現在は文書のオートフォーマット機能として広く利用されています.「機械翻訳編集技術」では,翻訳作業において原文と訳文の照合と編集が簡単に行える対訳編集機能を実現しました.
 これらの先駆的技術は,東芝製品に限らず,全世界でのMS-Officeあるいはその互換文書関連ソフト,Webページ作成ソフトで実施されています.また,世界初の携帯電話による道案内サービスekitan.comなどのサービス開発をはじめ,海外170件,国内165件の特許取得など,HI技術の振興に大いに貢献しています.
 本会においては,長年企画室委員を務め,電子ジャーナルの有料化WGリーダーとして2005年の有料化を推進しました.ほかに企画理事(2005〜2006年度),総務理事(2013〜2014年度),クラウドネットワークロボット研究専門委員会副委員長などとして,学会の運営と活性化に尽力されています.また,2007年に情報処理学会副会長を,2012年に電気学会副会長を務められたほか,総務省情報通信審議会委員,第20期日本学術会議会員,第22期,第23期日本学術会議会員,第三部幹事,など技術振興,学術振興に関わる各種会議において重要な役職を歴任されています.
 開発した「図表のアンカリング技術」はソフトウェア技術で初の全国発明表彰を受賞し,一般ユーザによる文書作成市場発展の端緒となりました.また,文書処理におけるHI技術開発による情報処理分野の発展に貢献した功績に関して,「情報通信月間」総務大臣表彰,科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞を受けるとともに,「文書処理におけるヒューマンインタフェース技術の開発と実用化」により本会業績賞,フェロー,更に,情報処理学会功績賞,同会フェロー,IEEEフェローなど合わせて19件の表彰を受賞しています.
 以上のように,同君のヒューマンインタフェースに関する研究業績に加え,本会及び電子情報通通信分野の発展への貢献は極めて顕著であり,本会の功績賞を贈るにふさわしい方であると確信致します.

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