功績賞 推薦の辞
齊藤 忠夫
 齊藤忠夫君は,1963年3月に東京大学工学部電子工学科を御卒業後,大学院修士課程,博士課程を経て,1968年4月に東京大学工学部講師に任官されました.以後,1969年に助教授に昇任,1986年7月に教授に昇進されました.東京大学において,通信の高度化,コンピュータネットワークなどの分野における教育・研究に従事するとともに,教育用計算機センター長,大型計算機センター長,情報基盤センター長として東京大学の情報サービスの整備に努力され,大学全体の研究教育環境の高度化に努められました.2001年3月に東京大学を定年退官され,名誉教授の称号をお受けになった後は,産業界でのICTの発展に寄与すべくトヨタIT開発センターCTOとして,引き続き研究と後輩の指導に活躍されています.
 同君の研究業績は,ディジタル交換方式,通信網同期,大容量パケット交換,回線割当制御方式,プロトコル工学,ハブ形ローカルエリアネットワーク,コンピュータネットワークなどの情報システムの基礎のほか,多様な社会システムの構築を含め多岐にわたっています.ディジタル交換方式では,同君の研究を原型とした交換網は1975年以降世界のディジタル交換機の標準になりました.この研究に関して研究したキャパシタ形の記憶素子を発明し,同じ回路によるメモリはCMOSメモリとして,今日の電子技術の基本となっています.
 また同君は,文部省学術国際局科学官を7年間勤められたほか,文部省,通商産業省,国土庁,郵政省,総務省,内閣府などの多くの審議会等に委員・専門委員として参画されました.特に郵政省・総務省においては,電気通信審議会会長代理,電気通信事業部会長,技術分科会長として,インターネット時代にふさわしい事業体系の構築に貢献されました.ADSLの環境整備,全国光ファイバ化計画,携帯電話番号の10桁化,相互接続ルールの法制化,優先接続(マイライン)制度,携帯ナンバーポータビリティーなどは同君の主導によるものです.自治体情報処理システムでは自治体ごとに独立して開発されていたシステムを標準化し,システムの高度化を可能にされました.警視庁においては1970年代初頭,都内7,000の信号機をコンピュータ制御するシステムの設計に参与し,都内交通の円滑化に寄与されました.
 学会の国際活動でも同君は国際情報処理連盟(IFIP)において1993年からTC-6(通信システム)の日本代表を務めるほか,2005年から全体会合の日本代表を務めておられます.
 これらの業績は,本会からの稲田賞,2回の論文賞,業績賞,フェロー称号,名誉員称号,電気学会からの論文賞,2回の郵政大臣表彰並びに電波の日総務大臣表彰,市村賞貢献賞,前島賞,IEEEからのライフフェローの称号などにより国内外から高く評価されております.
 本会においては,1980年以来,ハンドブック委員会幹事,幹事長,副委員長,委員長として8冊のハンドブックの出版に寄与されました.1999年度には通信ソサイエティ会長,2001〜2002年度には本会副会長を務め,アジア地域における本会の活動強化に向けて地域代表者会議を立ち上げるなどの貢献をされました.更に,2005年度には本会会長として,論文誌を紙ベースによる配送からオンラインジャーナルに切り替え,会員に対しては和英両方のオンラインジャーナルが閲覧できるようサービスの改善に努められました.
 以上のように同君の本会の発展と,我が国の電子情報通信技術の発展に寄与された功績は極めて顕著であり,ここに同君に本会の功績賞を授与するよう推薦致します.

CLOSE