巻頭言

学会のビジビリティに期待して

フェロー 林 弘
(株)富士通研究所 常務取締役
コンピュータシステム研究所 所長
(株)米国富士通研究所 社長

 学会の活性化が叫ばれている。情報処理関係の各学会は毎年産業界からの会員退会に悩まされ、会員増加の方策が毎年のように検討され、そのための重要課題として、学会の活性化が毎回議論されている。
 それでは、学会の活性化と会員増は相関するものであろうか。学会の活動は基本的に研究会を中心とし、それに伴う論文発表が中心である。従って、学会活性化現象(?)が示すように、研究会の発表件数は増えており、特に論文数はいずれの学会も相当増加している。
 しかし、期待されるほど研究会の会員は増えず、学会の会員も増えていない。産業界の会員が急速に減少していることからである。アカデミック関係の会員は着実に増加している。データの示すところは、学会活性化活動のもと、学会はアカデミック会員を中心とした学会へと徐々に変貌している。産業界の会員を増加する方法が是非とも必要な現状である。
 昨今のように各種の雑誌・無数ともいえるWEB情報が氾濫している状況では、学会が産業界の注目を引くのはだんだんと困難となっている。学会も従来以上にオープン化を進め、各方面からのビジビリティをあげる必要がある。
 しかし現在の学会で、この種の仕事を進める部門はどこであろうか。研究会の委員?論文誌の編集委員?会誌編集委員?ソサイエティ役員会?理事会?事務会?いずれも適切とは言い難い。それぞれの部門で、役割が明確となっているため、オープン化あるいはビジビリティ向上に対して誰もが責任を取れない状況である。基本的に従来の学会では定義されていなかった部分が非常に大きな注目を浴びるようになってきたとも考えられる。これに応じた学会の組織変更、特に全体を見て学界をどうするべきか企画立案する部隊が必要である。学会全体を考える部門を中心に学会のビジビリティを上げることにより、学会への期待度を高め、会員数の増加を狙う必要がある。
 学会のビジビリティの基本は、学会としての研究内容の高度化、学会のプロ集団としての技術のアウトプットである。日本のIT国家戦略が大きな声で騒がれているが、果たしてIT国家戦略を支える技術を一体どこに求めるのか。
国としての方向性は現状では画下記以外考えることができない。個人が集まる大学・国研への期待、有力技術集団としての企業への期待も当然あるが、国家全体を視野に置くのは困難である。しかし研究マスとしての学会は協力であり、その力を是非とも国の方向性を決定する場面で活用したいものである。日本の方向性を決めることができれば、学会のビジビリティは非常に大きなものとなり、各方面からの注目を浴びることができる。
 今必要なことは、ビジビリティをより大きくするための、学会組織の変革と学会会員による研究成果のアウトプットである。