巻頭言

21世紀の情報システム発展への期待

白井 克彦(早稲田大学理工学部情報学科)

 情報システムソサイエティの活動が益々盛んになっていくのは本当に嬉しい気持ちです。ソサイエティ論文賞を受賞された方々、おめでとうございます。さらにすばらしい研究を期待します。
 さて、いよいよ21世紀を迎えるにあたって、人類の将来に対する多くの困難性が指摘されています。なるほど、年次を横軸に取れば、基本的な指標は全て指数関数的であまり遠くなく破綻を来たすのではと思われます。
 しかし、人類が20世紀の終りに得た情報処理技術にはそれらの困難性を打破する本質的な可能性を持った、少なくとも1つの有力な力があると考えられます。それは、言うまでもなく、エネルギー消費や環境負荷を一層小さくしながら、指数関数的に高性能化を果たしているからです。
 重厚長大技術の発展も、必要な部分はあるでしょうが、車をはじめいわゆる道具は、情報システム技術を駆使して、その設計、生産から再利用までを全く新しいシステムとすることで、大幅に変革することが可能でしょう。また、医療などの分野を例にとっても、データベースやネットワークの発達によって、より広い知識の共有化や一層密な協力が進むでしょうし、画像処理やロボティックスの発達は、これまでの技術を越えた診断や治療を可能にします。重要なことは、それらは低燃費、低コストに向かうことです。
 情報システム技術は、これらの流れの中で本質的な役割を果たすことになります。その理由は、情報システムが、いよいよ人々の生活や社会全般に組み込まれてくるからに他なりません。情報システムは、個人や社会における人間の特性と深く接点を持つことになります。これまで、人間の情報処理機能の一部、たとえば音声認識などが研究開発され、少しずつ実用になってきたことは大変喜ばしいのですが、やはり、人間は総合的なものですから、一部を切り出した機能を作るのは大変難かしいのは当然です。しかし、領域や動作範囲を限定することで、人間活動がその中に収まる限り、と言っても大抵はその範囲はかなり巨大なのですが、それをカバーすると思われる大量データを集め、できる限り効果的にモデル化することで、音声認識や機械翻訳など領域限定型の人間の情報処理機能の実現を見ています。
 これからは、このような蓄積された知識は一層大きな領域を覆うと同時に、知識群が相互に関連を持ってくることでしょう。各知識群は局部的には、個々の人間の知識をはるかに越えているにも拘わらず、残念ながら、この知的機械の能力は、未だ乏しいものです。しかし、情報システムが人間生活に与える影響は益々大きくなって行きます。教育やコミュニケーション手段など最も根幹から、新しい社会構造の構築に関わっていくことになるでしょう。高等教育を考えても、情報の氾濫するボーダーレス社会の中で、個々の人間をしっかり位置付けることを助けることが、その重要な役割ですが、情報システムはここに大きく関わります。
 情報システム研究の次のステップが着々と切られることを期待しています。