巻頭言

インターネット社会の実現に向けて

西垣 浩司(NEC社長)

 昨年は、我が国においても本格的にインターネットが普及し始めた「インターネット元年」と位置づけられる年でした。政府においてはスーパ電子政府などのミレニアムプロジェクト構想が発動し、企業においては電子商取引への取り組みが本格化し、個人においてはインターネットがPC購入やiモード加入を加速させました。インターネット上で個人、企業、政府・公共機関の諸活動が為されるインターネット社会に向けて、社会全体が大きく動き始めたといえます。
 このインターネットの革新性は、人類最大の発明と称されるグーテンベルグの印刷機を上回るとも言われています。グーテンベルグの印刷機は、それまでの手書き聖書を印刷に代替することによって、神父や教会が独占していた聖典情報を広く一般にも知れ渡らせました。やがてそれは宗教改革を引き起こし、近世の扉を開く契機になったということです。すなわち、印刷機がもたらした情報コストの低減が、多くの個人に情報に触れる機会を与え、彼らを触発して新たな行動を引き起こしました。印刷機以降、電話やラジオ、テレビなど新しい発明が次々と出てきましたが、インターネットは全世界のユーザが極めて低コストで、世界中の動画も含めたコンテンツを瞬時に利用できるようにしたということで、これまでの発明を凌駕するといえます。コスト、時間、労力をかけることなく、しかも理解しやすいマルチメディアという形で全世界の知識を入手できるということは、人類の創造性をこれまで以上に刺激し、高める可能性があります。来るべきインターネット社会では人類の叡知を結集して環境問題、人口問題を克服すると共に、各人が個性溢れる自らの能力を十分に開花できる社会が期待されます。
 しかしながら、このような社会の実現のためには多くの困難な技術的課題に挑戦していかなければなりません。例えば、①高速、大容量のデータ通信需要に応えたり、信頼性、通信品質のレベルに応じた通信サービスを提供できるネットワークの開発、②大量のデータアクセスに耐えることができ、また環境変化に応じた柔軟な変更が可能な情報システムの開発、③通信やコンピュータの超高速処理や大量のデータ蓄積を可能とする電子デバイスやストレージの開発などです。また、インターネット社会の光に対して陰の部分といえる、クラッカーからの攻撃や非合法の電子商取引などに対しても、技術面からの対策が強く望まれます。
 健全なインターネット社会の実現は、まさに科学者、技術者の皆さんの双肩にかかっております。また、皆さんの「知」を結集する場として、この電子情報通信学会の果たす役割も益々重要になってくるものと思われます。当社も「Invitation to the Internet」のスローガンのもと、全社を挙げてインターネットに注力してまいります。是非、一緒にインターネット社会というフロンティアを開拓してまいりましょう。