巻頭言

新しい応用情報技術の開拓

相磯 秀夫(東京工科大学長)

人間社会の変革は科学技術の進歩に負うところが大きい。特に、20世紀後半では、エレクトロニクスの発展に裏付けられたコンピュータや通信を中核とした情報技術がその主役を果たし、これらの技術を基盤とした情報通信産業が国の基幹産業に成長した。しかしこの分野ほど進歩が激しい領域はない。今までメーカー主導型のハードウェア・ソフトウェア・応用システムの開発が主柱であった産業は、最近ではインターネットやマルチメディアなどの新しいデジタル技術を駆使したユーザーの要望を満たすしシステム構築(システムソリューション)や情報の価値を高める表現(コンテンツ)技術へと比重を移している。この傾向は電子商取引やエデュテイメントなどの応用システムの開発を見れば明らかであるが、社会変革そのものが応用情報技術(Applied Information Technology) の開発支えられていると見てよい。この分野の基盤は人間固有の知的活動を助け、助長する高度な技術であり、その開発には幅広い専門知識と高度な技能が不可欠であるが、学術的には理系・文系の領域を超えた諸学問横断的な学問分野の確立が求められる。
 一方、先端技術は人間に大きな恩恵を施しているが、それに平行して弊害をもたらす新しい社会問題を提起する心配もある。これからの技術者はそのような社会問題の発生を予測し、それに対処するための政策提言まで行うことが望まれる。また、健全な情報社会の成熟に向かって、先端技術を国家的な視点から効率的に発展させるための学問(Management of Technology) などの技術政策論の開拓も必要になる。このような背景から、これからは技術者だけで物事が完結することなく、様々な領域の専門家の協力が不可欠となる。技術者に加え、人文社会系ならびに芸術系などの異分野に関連する多才な専門家の協力が必須となる。
 最近は専門を二つもつ、いわいる”Double Major”の時代といわれているが、正にこの傾向を物語っている。どの分野も限り無く情報に強いことが求められている現在、情報通信以外の専門をもつ人に対して情報技術の特定専門知識と技能(スキル)を提供することが望まれる。そのような意味で、情報通信技術の分野は二つ目の専門(Second Major)として最も有望な領域であるが、大学や大学院がこのような社会的な要請にどのように応えるかが問題である。
新しい応用情報技術の開拓に対して本学会が果たす役割は極めて大きい。しかし学会員の多く(恐らく80%以上)は高度な研究論文には縁の薄い分野で活躍している事実を見たとき、幅広い領域にわたる応用情報技術の開拓に力を注ぎ、応用分野の専門家向きのソサエティ(Professional Society) の性格を強めてほしい。本ソサイエティの発展のためにもそうあることが望ましい。