研究室めぐり

JAIST 知識科学研究科<

北陸先端科学技術大学院大学 林 幸雄

1.世界初の“知識科学”研究科
 本学(JAIST)は、「21世紀の先端科学技術を担なう教育研究」を目標に我が国初の大学院大学として平成2年度に創設されました。これまで、全国の高専、国公立私立大学/大学院はもとより、企業派遣、社会人など多様な学生を受け入れ、独創的な研究と社会に有益な人材の育成に務めてきました。その建学精神を引き継いだ本学第3の研究科として、「知」という切口で科学を追求する知識科学研究科が平成10年4月に新設されました。
 本来、科学とは真理を探求し、人類社会に貢献する技術を生み出すものです。しかしながら、これまでの社会システムにおける科学技術の適用は生命や地球環境を脅かす反省点があることも示しています。本研究科は、21世紀の先端科学技術の創出とその在り方に関して問題の対策のみに捕らわれず、新たなtransdisciplinaryなアプローチで基礎科学を立ちあげ、グローバルな社会の問題に挑戦します。我々は、基礎理論だけでも応用のみでもない科学から技術、社会への影響までも含めた研究活動を目指します。

2.研究室めぐり
本研究科には全体で12の講座1があり、各講座には教授と助教授による2つの研究室があります。研究の主なアプローチから、情報学分野、数理情報/システム科学分野、社会システム学分野に分けて、以下に各講座の紹介をします。それぞれの研究室は互いに緩やかな結合を持ち、異分野の再編融合の機会を学内外に求めています。
2.1 情報学分野
いわゆる情報工学や知識工学関係の分野です。創造性開発システム論講座は、発想支援システムやグルーウェアの研究はもとより、仮説推論、知識獲得、計算言語学などに関する研究を行ないます。特に、知的生産性を向上させるツールや最新鋭の環境として、コラボルーム、デシジョンルーム、ブレインストーミングルームなどを具体的に構築していきます。知識構造論講座は、情報断片の生成/収集 →整理/組織化→知識創造という一連のプロセスの上流工程を支援する「創発メディア」と、電子情報空間の直観的な操作を可能にするための、世界に先駆的なGraph Drawingアルゴリズムの研究、情報構造の可視化、及び、図的表現や状況意味論などに関する研究を行ないます。また、環境アセスメントなどに対するシステム分析も行ないます。知識創造論講座は、人工知能や認知科学の手法を用いて、データマイニングや機械学習、コミュニケーションと知識発見、談話分析などに関する研究を行ないます。
2.2 数理情報/システム科学分野
 数学や物理学、システム工学や数理工学、分子生物学など、基礎理論からモデリング、シミュレーションに至る広い分野を扱ってます。
 複雑系解析論講座は、ソフトサイエンスの切口から、複雑系や意思決定のモデリング、地球環境シミュレーション、感性データ解析、日本的システム方法論の開発、ファジィモデリング、及び、進化言語学やパターン形成、カオスなどに関する研究を行ないます。環境問題を中心とした、知識ベース、モデルベース、シナリオベースなどの統合システムを構築します。知識システム構築論講座は、アルゴリズム論的な切口から、ニューラルネット、計算論的学習理論、脳の機能解析、インターネット上の知識表現、及び、システムやモデル全体の数理構造を扱う情報幾何学、ネットワーク生態系などに関する研究を行ないます。また、視点に応じた動的な情報構造の生成や、嗜好、口コミ、個人的推奨などによる対話処理に着目して、WWW上で自己成長する知の空間/思考空間の構築メカニズムを追求します。
 分子知識システム論講座は分子レベルの知識を、遺伝子知識システム論講座は遺伝子レベルの知識を扱い、大規模なデータベースをともに作成します。特に、世界最大級の総合的検索/解析サービスであるゲノムネットのミラーサーバを、東大医科研と京大化学研に続く国内第3のポイントして本格的に運用し始めました。これによって、遺伝子情報処理、知識ベース、生物情報学の研究拠点となることを目指します。複合システム論講座は、システム制御アプローチによる強化学習やデータマイニングなどの手法を用いた生産スケジューリングをはじめとする種々の応用、及び、システム構築に関するJavaのソフトウェアの再利用などに関する研究を行ないます。
2.3 社会システム学分野
 knowledge management, knowledge creating companyを提唱する知識学における世界の第1人者である野中教授らを中心に、組織論やネットワーク社会論などに関して研究します。上記の2分野とも連携して、知識創造の社会システムの運営や構築に関する方法論を追求します。本誌読者が理工系の研究開発者を中心とすることから、各講座のキーワードのみを紹介させて頂きます。
組織ダイナミクス論講座:知識創造ダイナミクス、
意思決定メカニズム論講座:意思決定、戦略、環境分析、組織知、
社会システム論講座:社会知、社会システム、ネットワーク、
研究開発プロセス論講座:技術開発プロセス。

3.創造的なチャレンジに向けて
 我々は、既存の理工学を社会システムに応用するのではなく, 新しい数学や科学を創り出す斬新で理知的な若い頭脳を求めています。
 JAISTでは, 白山のふもとに知的創造のための最先端の研究環境を構築しています。例えば、各学生には、それぞれ1台ずつのW/SとPC、学生宿舎からも利用可能なネットワーク環境、24時間利用可能な図書館、及び共有施設としてのテラバイト級の大規模データベースや実時間マルチメディア編集室などが与えられています。さらに、知識創造や問題解決手法の学習/研究の拠点を目指す知識科学教育研究センターや、近隣のサイエンスパーク内のコンベンション施設、創造的企業や起業を支援するインキュベーター(低貸料レンタルラボ)などの整備が着々と進んでいます。
 学科全般の情報や各研究室の詳細については、以下のURLを参照して下さい。

[知識科学研究科のページ] https://www.jaist.ac.jp/ks/index.html
[各研究室のページ] https://www.jaist.ac.jp/ks/labs/index.html

その他に、先端技術の産学共同研究を促進するための連携講座:高次脳機能システム(理研)、ヒューマンインターフェース(NTT基礎研)、知的生産システム(日立中研)、産業政策システム(三菱総研)、企業戦略システム(野村総研),地域システム(日本開発銀行),及び,富士通寄付講座:複雑系の科学があります。