研究室めぐり

KDD研究所海洋エンジニアリンググループ

グループリーダ 浅川 賢一

現在、日本と諸外国との間には、約10本の通信用海底ケーブルで結ばれています.海底ケーブルに万一障害が発生しますと、国際間の通信に大きな影響を与えるばかりでなく、その修理に要する費用も相当なものとなるため、海底ケーブルシステムには高い信頼性が要求されます。ところが、海底は高水圧下にあるため、その状況を調査することに多くの困難が伴うばかりでなく、作業機械を海底ケーブルに接近させるのも容易ではありません。また、浅海域では、漁網や船の錨からケーブルを保護するために、海底下にケーブルを埋設するなどの対策が必要となります。このような状況下で、いかに効率よく海底と海底ケーブルの敷設状況を調査するか?どのように海底ケーブルを敷設すればその信頼性が確保できるか?あるいは、障害修理を迅速にかつ効率よく行うためにはどのようにすればよいか?などの点について,研究を行っています。
主な研究内容
KDD研究所では、約18年前に上述の研究を開始しました。それ以来、海底ケーブル建設・保守用の有索式水中ロボット MARCAS-200とMARCAS-2500(MARCAS- 2500の写真)や、水中ロボット用の海底ケーブル探査センサ、光ファイバ入りの水中ロボット用テザーケーブルの開発などを世界に先駆けて行ってきました。海底ケーブルの建設・保守の立場から海中技術の研究を行っている機関は他になく、ユニークな研究グループと言えると思います。
(1)海底ケーブル調査用自律式水中ロボットの研究
海底ケーブルの埋設工事や、一部の修理工事では、海底ケーブルの建設と保守に、有索式の水中ロボットは必須のものとなっています。ところが、深海での埋設工事などを可能とするため、ロボットには大きなパワーが必要となり、ロボット本体や船上装置なども大型化してきました。そのため、大型の作業母船が必要となり、オペレーションコストも無視できないものになっています。現在開発中の自律式水中ロボットは、機能を調査に絞ることにより、運用コストの大幅な低減を狙ったものです。海底ケーブルの埋設深度の調査や海底状況の撮影などが主な目的です。動力源を内蔵の電池とすることにより、母船との間を結ぶテザーケーブルを不要としました。これにより、船上の大型ケーブルハンドリング装置が不要となると共に、ロボットもテザーケーブルから解放されるため、自由に泳ぐことができるようになります。漁船クラスの小型船でも運用が可能となります。母船との通信は超音波を使います。しかし、超音波通信には、伝送の遅延が伴うこと、伝送の品質があまり良くないこと、帯域が狭いことなどの問題があるため、船上から送るコマンドはハイレベルのコマンドのみで、詳細な制御は内蔵のコンピュータで行います。これまでに、研究用のプロトタイプである AQUA EXPLORER l000(AQUAEXPLORER lOOOの写真) を開発し、実際の海底ケーブルの自動追跡調査実験に成功しました。海底ケーブル調査機能を持つ世界で唯一の自律式水中ロボットです。現在、この成果を元に、性能を大幅に向上した実用ロボットの開発を進めているところです。海底ケーブルの調査のみでなく、漁業資源調査や環境調査など、各種の海洋調査への応用も期待されます。
(2)超音波による画像信号伝送の研究
前項の自律式水中ロボットでは、内蔵の水中カメラで撮影した映像信号を、やはり内蔵のVTRなどに記録しますが、映像の品質や海底の状況などはリアルタイムで知る必要があります。そこで、超音波により画像信号を伝送する研究を行っています。現在のところ、 1000m程度の距離で、32KBPSの伝送が可能です。自律式水中ロボットだけでなく、海底での信号伝送を必要とする分野への利用も期待されています。
(3)磁気センサを用いた海底ケーブル探査方式の研究
水中ロボットで海底ケーブルの位置を探査する方法としては、海底ケーブルに流れる交流あるいは直流電流から発生する交流または直流磁場を探知する方法、海底ケーブルを構成する外装鉄線などの磁性体から発生する直流磁場を探知する方法、金属探知器による方法などが考えられます。これらの方式のなかでは、交流電流による方法が最も簡単で性能も優れており、すでに実用化されております。しかし、状況によっては交流電流が流せない場合があります。そこで、当グループでは、現在、直流磁場を探知することにより、精度良く海底ケーブルの位置を検地する方法の研究を進めています。
(4)海底ケーブル敷設方法の研究
深海の海底ケーブルは、海底の起伏に沿って敷設されるようにケーブル敷設船から繰り出されてゆきます。そのためには、海底の起伏に合わせて、ケーブル敷設船の速度を変えたり、ケーブル繰り出し速度を調整する必要があります。また、海底ケーブルの中には信号増幅用の中継器が接続されますが、中継器の重量のため、その前後ではケーブルの沈降の仕方が変化します。このような様々な条件でのケーブル敷設方法を検討するために、コンピュータを用いた敷設シミュレーションの研究を行ってきました。
当グループの研究に御興味がある方は、
http://www.lab.kdd.co.jp/kdd/lab/marine/marine.html
をご覧下さい。