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パネル討論:「ディジタル時代の電子回路教育はこれでよいか?」 高窪 統 (中央大) |
ソサイエティ大会中の9月6日(土)午後に,回路とシステム(CAS)研究専門委員会 が企画した標記パネル討論が,東京工業大学の西原明法氏(CAS委員長)と 中央大学の篠田庄司氏(CAS顧問)の司会により行われた.
小澤氏は,現在の半導体産業の進歩によるエレクトロニクス産業の進歩は21世紀 になっても継続していくが,製造技術の進歩に対して設計技術の進歩が 追いつかず,設計危機の状況が訪れることを指摘した. 設計危機を克服するためには,大学における回路とシステム設計技術の充実が 不可欠となるが,日本の大学は米国,欧州に比べて立ち後れている. 我が国が国際的な競争力を持つためにも,日本の大学における設計技術強化が 急務であることを述べた.この状況を打開するための産から学への要求として, 1.工学部の社会への貢献の必要性,2.産と学における様々なミスマッチの除去, 3.シリコン半導体を用いたシステムの研究の必要性, 4.アナログとディジタルの両方が設計できる技術者の育成,が掲げられた.
藤高氏は,ディジタル回路もアナログ回路も共に電子回路であるにも かかわらず,大学は近年ディジタル回路教育,そのなかでも特にソフトウエアの 学習に重点を置いてきたように感じられると指摘した. 回路の学習というと,学生はコンピュータの上でCADツールを器用に動かして シミュレーションを実行する,という仮想体験で現実の現象を理解した つもりになっている. 企業が求める学生は, 1.自分で考察する楽しさ(企業の現場は○×ではない), 2.五感で感じる楽しさ(仮想体験ではだめ), 3.パズルを解く楽しさ(トラブルシューティング), を知っている学生である.
半導体のプロセス技術に支えられてきたディジタル回路も高速化やアナログ回路 との共存が迫られるようになり,設計にアナログ的センスが要求されるように なってきた.電子工学専攻の学生に期待するのは, 1.インピーダンス/マッチング, 2.差動アンプとノイズ, 3.パルスアンプとノイズ, 4.PLL,といったよりアナログ的な知識とこれらを利用した自力設計体験で ある.
菊池氏は,新潟大学における電子回路教育の現場を,電子回路を専門分野と しない教員が授業を担当している一例として紹介した.電子回路教育は2年次 学生85名に対して前期,後期各2単位の講義によって行われ,演習は 行っていない.内容は,トランジスタのT形等価回路の誘導とエミッタ接地等の 基本増幅回路,高周波等価回路,負帰還増幅器,集積回路の基本回路, 演算増幅器回路,発振回路,変復調回路である. 電源回路やマルチバイブレータおよび電子計算機による解析やCADについては ふれていない.第一の問題点は,人員不足のために演習を行っていない点で ある.第二の問題点は,専門家による電子回路入門教育と集積回路に関する 教育と研究が十分に展開されていない点である.限られた人員の中で, どのようにしてこれらの問題点を解決していくかが課題である.
藤井氏は,ディジタル全盛時代にあってもアナログ電子回路の教育が極めて 重要であるという信念のもとに,今日の東京工業大学で繰り広げられている, アナログ回路教育の現状とその充実のための努力について紹介した. アナログ電子回路は,設計の自由度が大きく,解が一意的でない. 自由度をいかに利用するかが設計者の経験と直感に委ねられており, このことがアナログ回路設計を困難なものにしている. また,経験と直感が重要であるアナログ電子回路教育では,理論ばかり ではなく実際の回路を用いてアナログ回路の常識を身につける必要もある. さらに,年々,回路の講義時間は削減され限られた授業時間の中で教育を 完結することを強いられている.そこで,講義では内容を複雑化することなく, 2〜3トランジスタの回路動作,1〜2トランジスタの回路設計, アナログ集積回路の特徴,OPアンプを用いた設計,アナログ回路の常識, 回路解析プログラムの理解,理論と実際の違い,を中心に3単位(演習を含む)の 授業を行っている.増幅の概念を理解することが重要である.教育効果を 高めるためには,講義,演習,実験と時間的に連続していることが望ましく, そのような時間割を提供しているが,当日の講義と実験テーマが一致する までにはいたっていない.
関根氏は,デジタルは物理法則というプラットホームから解き放たれることに より,人工的な閉じた理論体系のもとに適当に見通しの立つ論理集積回路 なるものを生み出してきたが,近年の半導体産業の不振は物理法則という プラットホームを切り離し限られた土俵の中で競争をするようになったことに よる反動であると指摘した.今後,集積回路がますます高速化すれば, 回路の動作はアナログ的となるから,電子回路教育とは,つまるところ アナログ電子回路の教育ということになる.従って,デジタル化によって 欠落した電磁気学,回路理論,デバイスやプロセス技術といったプラット ホームを回復する必要がある.しかし,この回復をそう多くの人が やりたがらないということが現在の最大の問題であると述べた. 最後に,この問題の根本的な解決は,電子回路のはたす役割の重要性を 社会的に認識するとともに,先生にもっと電子回路に対する関心を 持っていただき,学生に興味を持たせるような本当の意味での面白い 電子回路教育を行うことにつきるであろうとまとめられた.
会場に集まった約75名が参加して討論が行われた.主な意見は,
最後に篠田座長が,「ディジタル時代の電子回路教育には,人材,資金, 設備等,さまざまな障害要素があるが,アナログ的要素が重視されつつある 今日,アナログ電子回路教育の重要性が極めて高いことは明確であり, 産学公の努力によりその障害を乗り越えて行かなければならない」と総括して パネルを終了した.活発な議論により予定時間を30分超過した.