マイクロ波シミュレータ評価のための規範的問題作り

マイクロ波シミュレータ研究会第2作業部会

http://www.ieice.or.jp/es/ms/jpn/welcome.html

穴田哲夫†1,阿部眞†2,礒田陽次†3,柴田随道†4,田口光雄†5,中嶋政幸†6,野口泰正†7

†1神奈川大学工学部,†2村田製作所回路商品事業部,†3三菱電機情報技術総合研究所,†4NTTシステムエレクトロニクス研究所,†5長崎大学工学部,†6トキメックMRDセンター,†7近畿大学理工学部

あらまし:電子情報通信学会マイクロ波シミュレータ研究会の第2作業部会では,マイクロ波シミュレータの評価を目的とした規範的問題作りを行なっている.規範的問題は上記のWWWサイトに公開していく予定である.本稿では,その目的,内容,計画等を述べている.

キーワード:規範問題,シミュレータ,マイクロ波

 

Activities of Working Group #2

(Canonical Problems for Evaluating Microwave Simulators)

of the Microwave Simulator Research Group

Tetsuo ANADA1, Shin ABE2, Yoji ISOTA3, Tsugumichi SHIBATA4, Mitsuo TAGUCHI5, Masayuki NAKAJIMA6, Yasumasa NOGUCHI7

1 Kanagawa University, 2 Murata Manufacturing Co., Ltd., 3 Mitsubishi Electric Corp., Information Technology R&D Center, 4 NTT System Electronics Laboratories, 5 Nagasaki University, 6 Tokimec, MRD Center, 7 Kinki University

Abstract: The Working Group #2 of the IEICE Microwave Simulator Research Group is planning to publish a series of canonical problems for evaluating microwave simulators. These canonical problems will be found in the Web site at http://www.ieice.or.jp/es/ms/jpn/welcome.html. This paper describes some details of our plan on this activity.

Key words: Canonical Problem, Simulator, Microwave

1.まえがき

電子情報通信学会マイクロ波シミュレータ研究会の第2作業部会では,マイクロ波シミュレータの評価を目的とした規範的問題作りを行なっている.マイクロ波分野で特にハードウェア設計に使われるシミュレータは,概ね回路シミュレータと電磁界シミュレータに別けられている.これらのシミュレータの解析精度や計算効率などの性能の評価に関する問題は,本研究会[第1期 ’95/06〜’97/06,第2期 ’97/06〜]発足当初から議論されてきた課題である.そして本年6月,この問題を主な担務として本作業部会がスタートした.作業部会では,広範囲のシミュレータを対象に,一連の規範的,もしくは標準的な問題を定め,シミュレータによる解析結果をデータベース化していくことを検討している.本稿では,当面の活動期間である来年6月までの間に予定している取り組みについて,その目的,内容,計画等を述べる.

2.問題認識

回路シミュレータにしても,電磁界シミュレータにしても,その核となる部分は,大雑把には(偏)微分方程式を所望の条件を付けて解くための計算プログラムである.それにも関わらず,実際には多種のシミュレータが存在している.特に,電磁界シミュレータについては,有限要素法,境界要素法,差分法,あるいは,モーメント法,積分方程式に基づく方法,等価回路網を利用する方法,周波数領域法と時間領域法,等の多様な手法があり,その中の特定の手法を採用したシミュレータが個別に存在するのが現状である.基本的には境界条件付きのMaxwell方程式を解くと言う単一の機能が求められているにも関わらず,問題の次元と媒質条件や境界条件の多様性の故に複数の手法にそれぞれの特徴が見出され,関連の雑誌,論文誌には現在も多数の研究報告が掲載される状況である.

一方,近年のハードウエア設計環境の変化は目覚しい.WSやPCの高性能,低廉化が大幅に進展し,設計に投入できる計算リソースは年々増えている.このような状況において,上に述べた多様なシミュレータを有効に使いこなすこと,さらに使い分けることは,設計を高度化していく上での重要なポイントである.しかしながら,研究や開発の現場で設計を行なう実務エンジニアにとって,多くのシミュレータの中から目的の仕事に最適なものを選択し,それを短期間に効果的に使いこなせるようにすることは,なかなか難しい状況であろう.この作業を困難にしている要因の一つに,各シミュレータを客観的な立場から多面的に評価した情報が不足していることが挙げられる.数々のシミュレータの特徴や解析精度,計算効率を精査することは手間のかかる作業である.業界全体の利益を考えると,この種の検討は,シミュレータのユーザと開発者,ベンダー等の各立場の人々の参加を得て,一定の枠組みの基に公の場で進めるのが望ましいとの認識にたち,マイクロ波シミュレータ研究会で議論が行なわれてきたところである.作業部会では,規範的問題作りとデータベースの運用という切り口を通して,シミュレータの性能評価に関する情報の共有を図っていきたいと考えている.データベースとして,インターネットを利用したホームページの活用を検討している.その構想を次に述べる.

3.規範的問題集の構想と運用イメージ,計画

作業部会は,現在7名のメンバーで,規範的問題作り,問題集の公開,運用方法の検討を行なっており,今後,ケーススタディーとして,幾つかのシミュレータの評価に関わる検討も担務する予定である.問題の内容については,将来的には公募による拡充の方策を考えるべきと思われるが,当面は作業部会が中心に素案を提案していく予定である.問題集の運用に関する細部は更に検討を要するが,現時点の構想を以下に具体的に示す.

規範的問題は整理の便宜上,幾つかの範疇に分類することとした.各々の範疇に適当量の問題を用意する.問題のそれぞれに対して,その問題を用いてシミュレータを評価した結果を与える.本稿では,この評価結果を与える部分を回答,あるいは寄稿と呼ぶことにする.これらの全ての情報をインターネットのホームページに掲載し,そのホームページを管理,運用していく予定である.図1にこの情報群の構造を示している.

図1 規範的問題集のページ構成

ここで,問題には,回路の構造を説明する図と寸法,材料定数等の解析に必要な条件,回答すべき計算結果の範囲とそのフォーマットに関する指示,さらに必要に応じてその問題が何を明らかにすることを意図したものかを説明するコメント等を含むものとする.一方,回答は,問題に指示された結果を問題の意図に沿った形で与えることが要求され,評価の対象となるシミュレータの解析法,特徴,市販品であれば,その名前とバージョン,使用した計算機名,公称性能,OS,そして計算時間等,性能評価に関わる諸々のデータを含む.回答に関しては,データを提供する側の公平性も考慮すべきであり,広く様々な立場,分野の人から回答を求める仕組みを確立することが望ましい.さらに,データの客観性,信頼性の責任を明確にする意味で,回答者の氏名を明記する必要があるかも知れない.こうした用件を考えつつ,本検討期間中に寄稿制度を導入することを検討したい.

表1は,現在考えている問題の範疇を示している.特に電磁界シミュレータの評価に関する要望が多く聞かれることから,当初は2次元,3次元の受動回路構造を中心に問題の拡充を図っていく計画である.

表1 問題のカテゴリー分類

@導波管回路

金属導波管ベンド,アイリス,変換部,フィルタ,共振器等

Aプレーナ回路

マイクロストリップ,コプレーナストリップ系ベンド,スタブ,間隙,カップラ等

B誘電体/光導波路回路

NRD線路,光導波路の分岐,カップラ,PLC等

Cアンテナ/放射系

線状アンテナ,平面アンテナ,開口面アンテナ,放射,散乱問題等

D複合回路/パッケージ

上記@〜Cの複合回路,ICパッケージ構造等

E能動/非線形回路

アンプ,非線形素子を含む複合回路等

 

図2には,来年6月までの計画を示した.本活動期間中に表1に示した範疇の問題案を仮登録,公開し,並行して回答の公募,寄稿制度を検討する.来年6月の段階で問題と回答を一旦整理,本登録とし,その後の拡充については次期の活動に委ねる.

図2 今活動期間の計画

4.関連する課題

以上,3.に本作業部会が主体となって行なう予定の活動内容を述べた.規範的問題作りの第一義的な目的は,初めに述べたようにシミュレータの性能評価に関する情報を提供することにあるが,特定のシミュレータを他と比較しつつ総合的に評価して序列をつけることは,非常に難しくデリケートな問題である.そうした評価結果を公表することは作業部会の意図するところではない.我々の規範的問題のデータベースに期待されるものは,それぞれの問題に対する特定の条件での客観的評価結果であって,総合評価は情報を利用する個々人に委ねられている.また,この取り組みをより有効なものにするために,直接,あるいは間接的に取り組むべき課題も多くあると認識している.それらの課題については,研究会内外の他の作業部会,関連機関と連携を図り,順次検討していかなければならない.本項では2〜3の項目を挙げておく.

1)設問の意図について

多種の解析手法には,それぞれの長所や短所がある.同じ手法を用いたシミュレータにも,異なる工夫があり,それぞれの特徴があるであろう.全ての様相を一つの設問で浮き彫りにすることは不可能であるが,多くの問題を通していかに斑なく問うかは,問題を考える者の課題である.各設問の意図の設定には,解析手法に対する幅広い見識が必要であるし,最新のシミュレータに関する情報も必要であろう.これについては,本研究会の第1作業部会の協力を得て検討していきたい.

2)シミュレータの解析手法,使用方法等の情報提供について

1)に述べたこととも関連して,一つのシミュレータを効果的に使用し,最大限に性能を引き出すためには,シミュレータが使用している解析手法やシミュレータの使用方法の詳細を熟知する必要がある.シミュレータの使い方等の情報はシミュレータを理解する上で不可欠な要素の一部であり,規範的問題の回答とともに与えられていればたいへん有益であると思われる.このような取り組みを行なうには,シミュレータの開発者や市販シミュレータのベンダーに協力をお願いする必要があると考えている.

3)測定法,回路試作,実測値について

回答に対して何をもって正解とするかは問題により異なるが,実測値は常に一つの拠り所となり得る.しかし,実測にあたっては,測定法を吟味し,何の物理量を測定するのが良いか,材料定数や寸法を何桁まで規定できるか,といった問題について詳しい検討を要する.

5.まとめ

電子情報通信学会マイクロ波シミュレータ研究会の第2作業部会が計画している活動について,その目的,内容,計画を述べた.当面の間,規範的問題に関するWWWページは,以下のマイクロ波シミュレータ研究会ホームページの下に置く.

http://www.ieice.or.jp/es/ms/jpn/welcome.html

是非,このURLを訪れていただき,本ページへの寄稿等の協力をいただきたい.また,そこに定めた規範的問題の様々な局面への活用をお願いしたい.さらに,問題案や運用に関する作業部会への提案を上記サイトに示す本作業部会のメールアドレスにお送りいただければ幸いである.作業部会での検討材料としたい.