解説論文 
遠隔地をつなぐ振動伝送体験デザイン原理の構築に向けて

小特集
ディジタル化による新たな価値の創造

遠隔地をつなぐ振動伝送体験デザイン原理の構築に向けて

Towards Experience Design Principle that Connects Remote Areas using Vibration Information Transmission

駒﨑 掲 Kakagu Komazaki

渡邊淳司 Junji Watanabe

Summery 直接的な身体接触を行うことなく,人と人とのつながりを,実感を持って感じられることを目指した,遠隔地を通信によってつなぐ振動伝送の体験デザインについて,具体的な事例を挙げ解説する.振動伝送によって実現されるコンテンツに,ストーリーや文脈を付加することによって,テクノロジーがより効果的に社会で利用される「つながりの場」を実現することをこれまで行ってきた.具体的には,視覚障がい者と遠隔で振動のリアクションを送り合う体験や,アスリートとその家族が遠隔でハイタッチをする体験,家庭料理の伝承のシーンに用いることで,離れた場所にいる親子が一緒に料理をしているという感覚を共有する体験,スポーツの試合会場と病院の無菌病棟に入院する子供たちをつなぐ体験のデザインを行った.双方向だけではなく,片方向の伝送として,遠隔で試合をするアスリートの動きを体感し,自分事として観戦する体感観戦の実現や,プロの料理人の包丁の動作の振動を体感できるシステム構成を実現した.また,人とのつながりだけでなく,空間にある振動まで含めた触覚風景や,収録者の視点を通して身体的経験も含めた体験デザインについても紹介する.

Key Words 触覚,振動伝送,体験デザイン,リアルタイム伝送

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はじめに

つながりという言葉は,広辞苑によると「つながること,またそのものや,きずな,連繋,関係」という意味がある.

現在の社会的なつながりの状況を報告した調査として,令和4 年4 月に内閣官房孤独・孤立対策担当室による「人々のつながりに関する基礎調査」(1)が発表された.その中で「普段のコミュニケーションツールの利用状況別孤独感」というものがあり,固定電話・FAX,携帯電話・スマートフォン,タブレット型端末,パソコン,その他の通信機器(インターネットに接続できるゲーム機等)を人とのコミュニケーションに使っている人のうち,孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は4.4%となっている.一方で,コミュニケーションに上記の通信機器を使っていない人の,その割合は12.4%となっている.様々な情報通信技術が普及しているにもかかわらず,コミュニケーションを行うツールとして使えていない状況にある人は,孤独感を強く感じる傾向にあることが分かる.また外出頻度別孤独感の項目では,1週間における外出頻度別に見ると,孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は,外出しないという人が14.5%で最も高くなっているが,週3〜4日程度外出する人は3.0%と,その割合が最も低くなっている.

また,令和4 年7 月に内閣府から出された「第5 回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2)では,地域別のテレワーク実施率を見ると,東京都23 区では2019 年12 月の17.8%と比べて,2022 年6月では50.6%と非常に増えている状況である.外出の自粛が緩和されつつある一方で,在宅勤務の割合はコロナ前と比べて増えており,働く人の外出機会は2020年以前と比べて確実に少なくなっている.外出頻度が低いと孤独感を感じる割合が高いという現状から,外出しにくい状況下でも孤独を感じないように,つながり合える機会が世の中に必要なのではないだろうか.

このような,外出する機会が少ない状況においてや,離れている人同士のつながりを作る手段として,インターネットをはじめとする情報通信技術は有効な手段である.ただし,内閣府の出した孤独感の調査からも分かるように,そのような情報通信技術があってもつながり合う場がなければ利用されない.また,テクノロジーや場があっても,人がそれを利用するストーリーや必然性がなければ,実社会………

NTT コミュニケーション科学基礎研究所,厚木市

NTT Communication Science Laboratories,Atsugi-shi,243-0198 Japan