巻頭言

小特集 Special Issue

小特集発行にあたって

小特集 Special Issue

編集チームリーダ 山ヶ城尚志Takashi Yamagajo

ディジタル化による新たな価値の創造

近年DX(Digital Transformation)という言葉が多くのメディアで取り上げられています.また2021 年にデジタル庁が発足し,行政のディジタル化,規制改革,公務員の「デジタル職」採用,マイナンバーカード普及の推進,教育のディジタル化,ディジタル格差の解消に向けた活用支援,テレワークの推進などが推し進められています.こうした背景の下,私たちにとってディジタル化あるいはディジタル技術の活用という取組みが身近なものになってきました.DX という言葉自体は2004 年にスウェーデン大エリック・ストルターマン教授により,「IT の浸透が,人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と定義されました.その後も様々な先生方,団体による検討や定義が発表されています.このように一口にDX と言っても統一された定義はなく,取り扱う領域が多岐にわたるため,曖昧な印象を持たれることもあるのではないでしょうか.ディジタル化についても同様のことが言えると思います.

本小特集ではこのようなDX 及びディジタル化の取組みの具体的な例を挙げることを意図して企画されました.2000 年代に入ってからのIT 産業は,インターネット上に存在する膨大なデータを活用して新しいサービスを創出することで飛躍的な発展を遂げてきました.一方で私たちの社会活動,企業活動及び研究活動といった仕事や日常生活における様々な活動の多くはアナログプロセスです.現在これらのプロセスをディジタル化することで新しいサービスの創造や効率化を追求する動きが様々な分野で活発になっています.小特集ではこうした取組みにおける5 件の最新事例を主に技術的な側面から解説しています.始めに実在するヒトのあらゆる社会活動をディジタル化するという野心的な試みとして,⼈間と同じ知性や⼈格を感じられ,本⼈として社会の中で認知され活動できる自分の分身のような存在の実現をめざす“Another Me”の取組みを紹介します.続いてXR(Cross Reality)を活用した研究活動におけるディジタル化の取組み(RX: Research Transformation)について解説論文で紹介します.次にスポーツ(体操)におけるヒトの動作を,ライダ(Lidar)を用いてディジタル化することにより精度の高い採点を可能にする技術,振動を介して離れた場所にいる人と体験を共有する取組みについて解説論文で紹介します.最後に企業活動におけるディジタル化の推進事例として製造領域における取組みについての解説を掲載しています.これらの事例がDX・ディジタル化推進ひいては新しいサービス,価値創造を推進する際の一助となれば幸いです.

最後になりましたが,本小特集の発行にあたり,お忙しい中貴重な時間を割いて御執筆して下さった筆者の皆様,査読,校閲に御協力して下さった皆様に感謝致します.ありがとうございました.

Special Issue

小特集編集チーム
山ヶ城尚志,遠藤寛之,瀧川道生,
竹村暢康,中西孝行,松井健一